豊浜魚醤・しこの露


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カタクチイワシってどんな魚?

カタクチイワシ

 カタクチイワシ(片口鰯)はニシン目カタクチイワシ科の魚で、英名では「Japanese anchovy(ジャパニーズ・アンチョビ)」といいます。上顎が下顎より極端に大きく、口の形が偏って見えることが名前の由来です。

 普通イワシというと、「マイワシ」「ウルメイワシ」「カタクチイワシ」の3種を指します。カタクチイワシはそのうちもっとも小さい種類で、全長は 10cm 程度ですが、中には 18cm くらいまで成長するものもあります。

 カタクチイワシは北海道以外の全国で獲れるので、各地でさまざまな呼び名が付けられています。「かくはり」「ぶと」「かたくち」「せぐろいわし」「どろいわし」「しこいわし(しこ)」「ひしこいわし(ひしこ)」「たれくち」「えたれ」「ほほだれ(ほおたれ)」「こしなが」など色々ありますが、関東では概ね「せぐろいわし」、関西では「たれくち」で通っているようです。

 このほか成長過程によっても区別されており、稚魚や幼魚で 2cm ほどのものを「しらす」「ぼうずしらす」「どろめ」、3〜5cm ほどに成長したものを「かえり(かえりじゃこ、かえりいわし)」などと呼びます。ちなみに「どろめ」の語源は、どろっとした中に目だけが光っているからです。

 旬は5月から8月で、刺身にするとマイワシよりおいしいといわれます。ただ鮮度落ちが非常に早いので、生食用として出回ることはまずありません。ほとんどが飼料や肥料になり、食用にされるものは煮干しやたつくり、みりん干しやアンチョビなどに加工されます。ちなみにカツオの一本釣り漁の撒き餌として使われているのがカタクチイワシです。

カタクチイワシ七変化

 しらすはカタクチイワシの稚魚ですが、加工食品として「しらす」という場合は、しらすをさっと茹でたもの、もしくは茹でた後軽く干したものを指します。「じゃこ(ちりめんじゃこ)」も同じものですが、7割方乾燥させた柔らかいものを「しらす」、硬くなるまで乾燥させたものを「じゃこ」と呼んで区別する場合もあります。「タタミイワシ」は「しらす」をすいて干したものです。

 お正月料理の「たつくり」は「しらす」を干物にしたもので、地域によっては「ごまめ」と呼びます。江戸時代の農村では鰯などの小魚を干して肥料にしていました。この肥料を「ほしか(干し鰯)」といいます。カタクチイワシは田んぼを作るのに大切な魚だったので、「田作り」と呼ばれるようになったのです。

 「ごまめ」はもともと「ゴマ目」で、ゴマのように小さな目をした魚という意味でしたが、後に「五万米」と書くようになりました。干し鰯を肥料にすると土がよくなり、米が五万俵もとれるという縁起のいい漢字を当てています。つまり、お正月料理の「たつくり」「ごまめ」には豊年満作の祈りが込められているのです。また、カタクチイワシは群れをなして行動することから、子孫繁栄の願いもこもっているといわれます。

 「めざし」はカタクチイワシやウルメイワシなどを塩漬けし、目に藁や竹串などを通して数匹ずつ束ね、乾燥させたものです。春の季語でもあります。

 「煮干し」はその名の通り煮て干したものです。原料となる小魚には色々ありますが、カタクチイワシで作った煮干しが最も一般的です。「いりこ(炒り子)」「だしじゃこ」などの別名があり、だしを取る材料になります。

 「アンチョビ」の原料になるのは本来地中海で獲れるカタクチイワシ科の小魚で、やはりアンチョビという名前です。このアンチョビと日本のカタクチイワシは違うものですが、日本のカタクチイワシ(ジャパニーズ・アンチョビ)をアンチョビに加工することももちろんあります。「アンチョビ」はアンチョビを塩漬け、または塩漬けした後さらにオリーブ油に漬けたもので、塩に漬けている間に発酵・熟成するため独特のうま味が生じます。この「アンチョビ」から作った「アンチョビ・ソース」がヨーロッパにおける魚醤の名残であることは、「魚醤豆事典」で説明したとおりです。


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