アジアは魚醤の文化圏
日本には、日本の3大魚醤と呼ばれる有名な魚醤があります。
県名 |
名称 |
原料 |
秋田県 |
しょっつる |
ハタハタ、イワシ等 |
石川県 |
いしる(いしり) |
イカの内臓、イワシ等 |
香川県 |
いかなご醤油 |
いかなご(こうなご) |
「しょっつる」は「塩汁」、「いしる」は「魚汁」が訛ったものです。魚醤初心者には、イワシ製の「いしる」が、癖がなく使いやすいようです。イワシ製の「いしる」を特に「よしる」と呼ぶこともあります。
この他、伊豆諸島の「くさや汁」など、一部の地域で伝統的に作られています。「牡蠣醤油」や「蛤醤油」など、貝から作るものも存在します。ちなみにオイスターソースは牡蠣の煮汁に味付けをしたもので、発酵させているわけではありませんので牡蠣醤油とは違います。
世界的に見ると、魚醤は主に東南アジアに広く分布しています。特にベトナムでは最も普及率が高い調味料となっています。
国名 |
魚醤油 |
塩辛 |
韓国 |
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ジョッカル(チョッカル) |
中国 |
魚露(ユィルー) |
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インドネシア |
ケチャップ・イカン |
トラシ |
カンボジア |
タクトレイ(トゥック・トレイ) |
プラ・ホック |
タイ |
ナンプラー |
プラーラー、プラー・デューク
ブードゥー、カピ |
フィリピン |
パティス |
バゴオン |
バングラデシュ |
ナピ |
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ベトナム |
ニョクマム(ヌクマム) |
マムルゥ、マムネーム |
マレーシア |
ブードゥー |
ブラチャン |
ミャンマー |
ンガピャーエー |
ンガピ |
ラオス |
ナム・パー(ナンパー) |
パデーク、カピ |
塩辛的なものも合わせると、魚醤類の北限は秋田県の「しょっつる」、南限はインドネシア東部の「トラシ」、西限はバングラディシュの「ナピ」で、このエリアはほぼ水田農業地帯(米食文化圏)と重なっています。
うま味を持つ調味料である味噌や醤油を常用してきた東アジア、東南アジアは「うま味の文化圏」と呼ばれています。そのうち中国・朝鮮半島・日本では、かつては魚醤も使われていましたが現在では穀醤が調味の主流です。この地域を「穀醤卓越地域」と呼びます。一方、東南アジアの諸国では穀醤は発達せず、今でも魚醤が重要な調味料として利用されています。こちらの地域は「魚醤卓越地域」と呼ばれます。
東南アジアにおいて、魚醤が穀醤に取って代わられなかったのは、おそらく東南アジア最大の川であるメコン川で、魚醤の材料となる小魚が大量に獲れたためであろうと考えられます。
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うま味の文化圏 |
実は、古代ローマ時代のヨーロッパにも「ガルム」「リクァメン」と呼ばれる魚醤が存在していました。紀元1世紀頃に書かれた『アピーキウスの料理書』という料理書に、これらの魚醤の作り方や、それを使ったレシピなどが記されています。また、聖書にも似たようなものの記述があるようです。
これらの魚醤は南フランスやスペイン、トルコ、リビアなどでも作られ、ローマへ送られていました。しかし古代ローマ帝国の滅亡とともに魚醤は廃れ、ソースが調味の主流として使われるようになりました。今では13世紀頃に登場した「コラトゥーラ・ディ・アリーチ」という魚醤が、イタリアのチェターラという町に残っている程度です。
現在ヨーロッパで使われているアンチョビ・ソースは、「ガルム」の名残ではないかと考えられています。
世界で魚醤を使っている民族は約4億人、全人口の約8%です。
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