伝統のうま味「魚醤」〜復権天然志向で家庭に広まる |
ごく一部の地域で伝統的に利用されていた魚醤が、消費者の天然志向やエスニック料理の普及で、加工食品の隠し味にと、需要が著しく増加。その独特の臭みを持った味に抵抗感が薄まり、一般家庭の食卓にまで広がりをみせている。 魚醤は新鮮な魚介類に塩をまぶしながら容器に漬け込み、発酵熟成させ、ろ過した調味料。国内では大豆を使う醤油が普及し、その陰に隠れていた。秋田の「しょっつる」、能登半島の「いしる」、香川の「イカナゴ醤油」などが生き残っている。 最近ではタイのナンプラー、ベトナムのニョクマムなど東南アジア生まれの魚醤にもスポットが当たっている。 |
臭みにも抵抗感薄まる |
「こくはあるが、臭みは全くない。むしろ普通の醤油に近い。」福井県越前町商工会の壁下喜平事務局長はタラのアラとイカのゴロ(内臓)を使って新しく生み出した魚醤「ととだし」の出来に胸を張る。 越前町はカニ、イワシ、イカなど魚介類が豊富。加工業者からは大量のアラやゴロが捨てられていた。「何とか使い道はないものか。」昔この地方で作っていた魚醤の伝統をよみがえらそうと、東京農業大の発酵生産科学研究室の協力を求めた。 指導に当たった角田潔和教授は「発酵を早くするように麹、酵母を使う。タンパク質が完全に分解するため、うま味成分がいっそう強く出ている。」という。 「ととだし」の出荷量は倍増しており、昨年は1万本を突破した。東京農業大の研究室は越前町のほかにも高知県のカツオ、北海道釧路市のサケを使った魚醤作りの助っ人も。 細々と生産を続けていた「いしる」の産地、石川県では、このところ生産業者の復活が相次いでいる。県農産課によると、生産量が 1987年の約33t から、昨年は約200t に増加。県も「ふるさと認定食品」に指定し、PR に力を入れ始めた。 「現代の日本人の味覚は肥えていく一方。それに応えて焼肉のたれ、つゆに、魚醤が隠し味として見直されている。大手の醤油メーカーも魚醤に参入しています。」と話すのは日本醤油研究所の中台忠信主任研究員。 市場規模も推計で現在は国内産が 1,000t、輸入品も5年前の倍増 5,000t に伸びている。 一方、滋賀県の琵琶湖で猛威を振るう外来魚ブルーギル対策に、県農業試験場、地元高校は魚醤に利用できないか、商品化を目指して研究に取り組んでいる。 |
(中部経済新聞 2003/02/01) |