3月11日に発生した東日本大震災による津波で
被害を受けた福島第一原発の炉心冷却と放射能漏れ対策が難航しているなかで本当の話は何か。
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● | 後手に回った対応 |
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原発は炉心溶融せずに、停止した。問題は非常用電源がすべて故障し冷却装置が機能しなかったこと。ガス抜き(ベント)によって放射線が大量に放出されたこと。電源復旧が遅れたこと。1、2号機は40年前のアメリカGE、3号機は東芝、4号機は日立製。海水の注入、冷水による冷却、すべてが後手、手遅れになった。初期は放射能漏れもなく作業しやすかった筈。すぐアメリカの協力を得るなり、ハイパーレスキュー隊や自衛隊が出動して水で冷やせば危険な事態には陥らなかった。政府の対応の遅れで国民に迷惑をかけた。
事故後20km圏は住民は退避指示、30km圏は屋内退避となり、長期にわたって苦難の生活が続いている。放射線量の基準値を超えた農作物や海産物の出荷停止は深刻さを増す。
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● | 原発の実態 |
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チェルノブイリ原発事故を連想してメルトダウン(炉心溶融)の危機が飛び交ったが、炉心が停止して核分裂反応が止まっている以上、臨界に達するような爆発的な核反応が起こることはない。チェルノブイリは稼動中に炉心溶融ののちの臨界爆発である。広島に投下された原子爆弾に換算して約500発分の惨事に相当する。福島原発の拡散放射線量は10分の1で全く違う。ただ収束の目途が立っていない点は問題が深い。
今回の問題は、核分裂反応を終えた後の使用済み燃料。放っておけば2000度の熱を持ち、溶けてしまう。水を循環させて冷やせばいいのだが、水がなくなればセシウムやヨウ素などの放射性物質が拡散する。電源が復旧したので、約1年かけて冷やせば熱を出さなくなる。
ただし、うまくコントロールできても廃炉しかない。廃炉は放射能レベルが下がるのを待って、コンクリートで固めるか、炉心だけを鉛で二重三重に囲む必要がある。
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● | 放射線量について |
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報道では、放射線量をX線やCTスキャンと比較する例が多い。しかし、それらの機器で健康を害する例はあるのか?飛行機に乗ればX線より強い放射線を浴びるが、パイロットは平気だ。がん治療では、がん細胞をやっつけるために、CTスキャンの1万倍という人間が耐え得るギリギリの放射線を当てる。健康への影響を測るなら、この放射線治療と比べるのは妥当ではない。
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● | 農作物などへの影響 |
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福島、栃木、茨城などの農作物、また首都圏でも水道水から基準値を超える放射能が検出された。そもそもの基準になる値は、学者が安全の上に安全を期して見積もられたもの。何十倍といえば大きくみえるが、数字がひとり歩きしている。国が用心のため農産物の摂取を控える通達はわかるが、農産物を廃棄することはない。洗えばいい。しかし土壌や海洋汚染は、農漁業の生計にかかわる問題だけに放置はできない。
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● | 政府の対応 |
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今回の事故はレベル5と発表した。海外のメディアは、こぞって「事態は日本政府の発表より重大」と報じている。チェルノブイリ事故(レベル7)でソ連が情報隠しをしていたから、世
界中が警戒している。米軍は北朝鮮対策で最先端の放射能監視機器を備えており、政府は隠しようがない。
放射能の影響という点では、科学者と一般の人々の受け取り方に、かなりの違いがある。これは被爆国であり、数々の公害を経験したことから、政府や科学者に対する不信感があるかもしれない。
(その後政府は、4月12日、最も深刻な「レベル7」に変更した。)
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● | 原子力発電とは |
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核分裂のエネルギー、つまり原爆と同じ原理を利用して電気を生み出すのが原子力発電。といっても核分裂で直接電気が生まれるのではない。丈夫な釜(原子炉)の中でウランなどを核分裂させ、その時に発生する大量の熱で水を沸騰させて蒸気をつくり、その蒸気を発電機につながった巨大な羽根車(タービン)に吹きつけて発電機を廻す。
要するに「間接蒸気力発電」。蒸気を作るのに、石炭、石油、ガス、などを燃やせぱ「火力発電」。蒸気を使わず、ダムから落下する水の力でタービンを廻せば「水力発電」。
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● | 原発についての考え方 |
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世界で最も安全水準が高いとされていた日本で起きただけに世界中に衝撃を与えた。安全神話が揺らいだことで、原子力発電への懐疑が広がる可能性がある。原発には安全の保証はない、原発事故はあまりにも危険である、これほどの危険な原発に依存したくない、というのが本音と思う。早く事故を終息する工程を示してさらに安全な原子炉を建設する決意を表明できるか。
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(日経、読売、産経、中京スポーツの記事を引用 (株)太田廣 太田義知) |